星野源と米津玄師の曲作りのエピソードを、自分の仕事の姿勢にも活かしてみる

アーティストや芸能人というと、一握りの成功を掴んだ特別な人、という印象が、我々一般人にはあります。今まさにオリンピック期間ですが、アスリートもそういう印象ですね。

特別な才能に恵まれた人は、本当に恵まれているのか。 才能があるから素晴らしいアウトプットを難なくこなせるのか。

かというと、私は『才能があっても、才能を活かすだけの努力が伴わなければ成功しない』と思っています。

誰目線だよ、とお思いかもしれませんがそこはスルーしてください。でもこれって、真理ではないでしょうかね。

才能があれば遊んでいてもサボっていても研究を怠っても成功できるかと言うとそうではないな、とふと感じることがあるからです。

自分のキャリアや今後の展開を考える時、また日々の仕事や能力に壁を感じたりする時、つい自分の専門領域や同業者、業界の憧れの人などを思い浮かべたり追いかけたりするかもしれません。しかし、意外なところにヒントや参考になることや、背中を押してくれるエピソードが転がっていたりします。

興味関心好奇心は人一倍過剰なほどあるので、たまたま見たテレビや聴いたラジオや聞いた意外な話から「なるほど!」とヒントを得ることは得意です。

そして先程の才能の話に戻るのですが、一見別世界と思いがちで、発表された完成品だけを目にすると「この人は特別な人だから」とか、もはや別世界すぎてそんなことすら思わないかもしれません。しかしそこには必ず誰だって産みの苦しみがあったりします。涼しい顔をして泳いでいるようでも、水面下では足をバタバタさせてもがいているわけです。

私はそういう才能あふれる人も努力して苦労して作り上げてるんだな、っていう話が好きなんですけど(笑)、皆さんはいかがですか?

目次

『星野源のオールナイトニッポン』でのふたりのトークが有益すぎた

というわけで、今回はタイトルの通り、星野源さんと米津玄師さんのトークをご紹介したい。

ふたりとも曲を出せばもれなくヒットするという、間違いなく才能溢れる日本が誇るトップアーティストです。 長い間最前線での活躍を見ればたまたま一発当たったわけではないことは、彼らの音楽に詳しくない人にだってわかるはず。

以前(2021年6月ごろ)、『星野源のオールナイトニッポン』に米津玄師さんが登場した時、おふたりの会話が印象的で今でもかなり鮮明に覚えています。あまりによかったのでメモしていましたのでそれを引っ張り出してきて、一語一句正確ではありませんが書き起こし引用しますね。

時同じくして、ちょうどドラマ主題歌を作り、どちらもドラマも楽曲も超ヒットしていたタイミング。

星野源さんはTBSドラマ『着飾る恋には理由があって』のエンディングテーマ『不思議』をリリースし、米津玄師さんは同じくTBSドラマの『リコカツ』のエンディングテーマ『Pale Blue』をリリース。

星野源『不思議』
米津玄師『Pale Blue』

↑どちらもMVをフル尺でYoutubeで無料視聴できちゃうってすごくないですか…なんて大盤振る舞いなんだ。。

同じタイミングでドラマタイアップ曲をリリースしたその後、という時のざっくばらんな会話でした。

個性の立ったアーティストでありながら『クライアントワーク』の難しさ

おふたりが同じタイミングでTBSドラマのタイアップを依頼され、同じタイミングで苦労したポイントはどちらもテーマが『ラブソング』だったことにあったそう。

米津「元々、ガッツリ、ラブソングを作りたかったんですよね。そんな風に考えている時に『リコカツ』のお話をいただいて、非常にいいタイミングだなと。でも、実際に作り始めたら、恋愛ってなんだって「はて?」みたいな感じになってしまって、今回は締め切りに間に合わないかと…」

星野「ドラマプロデューサーに『星野さん、今回は“キュン”下さい』って言われて。俺、キュンがわからなくて。役者としては求められることはあったけど、楽曲としての“キュン”は…」

とそれぞれ悩んだ挙句、アニメ好きな星野さんは自分が思う“キュン”なアニメを数話見ては曲を作り、また“キュン”が足りなくなったら続きを見てと、“キュン”要素を補填しながら曲を作ったんだそう。

米津さんも、『はて?』となった恋愛については少女漫画を読んだりしながら楽曲制作にあたった、とのこと。

彼らほどのアーティストでも、そうやって外部からイメージソースを取り入れたりして創作するんだな、とわかるとちょっと安心しませんか。笑

また、星野さんは新垣さんとの結婚発表直後だったこともあってか「ラブソングってよく『ご自身の経験ですか』って聞かれるんですけど、全然そうじゃないです。正座でキス※したことありません。笑」(※歌詞にそういう表現がある)とラジオの別の回で話していましたが、創作者のすごさってそれだなあ、と思う部分でもあります。

それを自分に置き換えると、確かにデザインでも、まあ自分がいいとは思わないデザインを場合によってはすることもあります。それはそれこそ『クライアントワーク』なのと、デザインは個人の“作品”ではないから当然だなとは思うのですが、アーティストの場合、クライアントワークであっても自分の名前と顔を出して自分の価値観にない世界観を表現するって抵抗はないのだろうか、と思うことも。

星野源、米津玄師、というアーティストの作る楽曲であることが前提ではあるので、基本的には「あなたらしさを出してください!」とオーダーされるわけですが、一方でドラマのストーリーやテーマという具体的な『お題』があるわけです。

放送時間や主演俳優の雰囲気、ストーリーがシリアスなのかコメディなのか、狙っている視聴者層…などなど。

さらに複雑に入り組んだテレビ局や制作側の思惑なんかもすべて乗せて、みんなが「そう、これこれ!これが欲しかったんだよ」となるものを作り上げねばならない…どんだけプレッシャー高い案件ですか…!!

アーティストって、自分が好きなように、自分が思ったことだけを自由に創作して発表して、というようなイメージがありますが、全然そうではないんですよね。時に自分の価値観にないことも必要に応じてメッセージする。個人の表現であると同時に、やっぱり社会的な“仕事”なんですよね。

余談ですが、椎名林檎の場合は…

それを感じたのは、同じくアーティストの椎名林檎さんが「この考え方は嫌いだなと思いながら歌っている曲もある」と言っていたこと。

特にそれはクライアントワークだったかはわかりませんが、彼女の場合は「自分の曲が女の子たちの人生のサントラになって欲しい」と語っていたのをたまたま見たのですが、自分の価値観を一方的に表現するだけでなく、自分とは離れたところで誰かの価値観を表現することもあるのだな、と、これまた「へぇ〜」と思ったりしたのでした。

なかなか完成しない苦悩と、締め切りに追われるダブルの苦しみ

そうやって作って行ってもすんなりできるわけではなく、

星野「曲産むの大変だよね。なんでこんなに辛いんだろうって思いながらやってたよね。全然寝ないで白目むいてやってたな。」

米津「ものすごい苦しいのに、なんでやるんですかね。」

星野「なんでこんなことしてるんだろうって思うよね。」

米津「バカなんじゃないか。本当にずっと苦しむのに、それでも完成するとまたやりたくなるんですよね。」

そういうものづくりの話を聞くと本当に背中押されるというか、いや、自分、まだまだでした…!と反省したくなる。おふたりほどのポジションの人がそこまでやっているのに、自分まだまだ甘かったです!!と謝りたくなります。

自主制作の楽曲と違って、ドラマのタイアップ曲というのは、いわゆる『クライアントワーク』。締め切り問題もシビアな様子も伝わってきました。

星野「ドラマって、絶対に期限があるじゃん。確実に初回放送に間に合わせないといけないから、あの圧迫感はたまらないものがあるよね」

米津「レコーディングまであと1週間なのに何もできてなくて、これやばくない?やばくない?って言いながら腕を組みながら壁をじっと見ているという時間を過ごしてました。笑」

米津「飛ばすなって思いました。ドラマの1話が始まるまでにアレンジ間に合わないから、ギターだけとか、ワンコーラスだけで良いですかとか交渉しようかと」

星野「俺もそれあるけど、言ってみたけどダメだったことある。笑」

米津さん、今回の曲もギリギリで出来たらしいけど、それでこのクオリティ。いやほんとすごい。

ちなみに、たまたまどちらのドラマも観ていたのですが、彼らの曲が入ることで物語がグッと盛り上がり展開していく、さらに芝居の見えない部分までストーリーに深みを持たせていたのをリアルタイムで見ていたので、素晴らしいとしか言えませんでした。

SNSでもドラマのストーリーとは別のところで「今日は誰が星野源を背負うか!?(エンディングが流れる瞬間、恋敵のどちらがメインで映るか)」というのが、ドラマ視聴者たちが一喜一憂するという新たな社会現象も巻き起こしました。

そして高いクオリティのアウトプットに到達する力

どれだけ苦しんだとしても、当然妥協ではなく、何かの模倣でもなく、物足りなさもなく、むしろ今まで聴いたこともない新しい領域に到達させてアウトプットしているのが、本当に才能があるし、さらにそれを活かすだけの努力をきちんとしているんだなあ、と思わされる部分なのです。

補足しておくと、米津さんの『ギリギリまでできていない』というのは自分が納得して自分のOKラインを超えたたものができたかどうかということで、実際は今の完成曲までにボツにした曲が3〜4曲はあるそう。

それも、どれもいい曲なんだけど、ドラマのストーリーには合わなかったりしっくりこなかったから、というのが理由。うーん、ストイック。

すでに依頼者からの期待値が高まっている上に、さらにめちゃくちゃ高いであろう自分の設定したOKラインを超えるものができない限り、完成ではない。というプロフェッショナルさ。

才能の有無は置いといて、仕事に向かう姿勢として、自分にはここまで徹底した探求ができるだろうか?などと考えます。

これまでの実績があるからこそ、結果を期待される。その期待に応えなければならない。 なんなら、数倍以上想像を超えていかなければならない。想像を超えたものを期待されているわけで。この緊張感はアスリート並みだな、、とも思いますね。

制作秘話はまだまだ続きます。

自分の作っているものを客観視するには、どうしてる?

作詞作曲をそれぞれご本人が手がけており、さらに編曲もするふたり。(※米津さんは最近アレンジはアレンジャーさんに任せているようですが、星野さんは全曲アレンジも本人が手がけることにこだわっているのです)

主にひとりでの創作活動にくわえて、今はコロナ禍で気軽なセッションがしにくい状況。当然、客観視がしづらく迷いも生まれやすい。そんな時、どうしているのか?という問いが星野さんから投げられました。

星野「途中まで作ったデモ曲を、なるべく客観的に聴くために、家の中で遠く離れて聴いてみたりとか、わざと別のことをして気分を変えてから聴いてみたりするんだけど」

米津「俺は一旦寝ますね。でもデータ保存できてなかったみたいで、寝て起きたらMacがクラッシュして全部消えてたことがあって…」

という話には首がもげるかと思うほど頷きました。

デザイナーも、デザインのバランスを客観的に見るためにPC画面から離れて見るとか、出力して壁に貼るとか、ちょっと別のことをしてから見るとかするので、同じなんだなあ〜!と感動しました。面白い。

ジャンルは違えど、クリエイターの裏話からは得るものが多い

トップアーティスト同士のものづくりの裏側をこんな風に聴けるなんて贅沢すぎませんか。

この製作費話を知った上でまたそれぞれの楽曲を聴くと、より深く楽しめます。先程のYoutubeぜひ再生してみてください。

CDのリリース直後なんかでは、宣伝活動の一環で増えるインタビューなんかでも時々ありますけど、やはり聞き手がインタビュアーよりも、同じ境遇のアーティスト同士だからわかるニュアンスで繰り広げられるトークは必聴だったよなあ、と今でも思います。完全保存して、仕事で行き詰まった時に繰り返し聴きたい音源だったなあ、と書き起こしした今あらためて実感しました。

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