中島セナ主演・柳沢翔監督の『ポカリCM』をYoutubeで何度も見たくなる理由

公開当日から一気にネットで話題になっていた2021年の新しいポカリスウェットのCM。
とはいえ、主に広告やクリエイター界隈でのバズかもしれませんが、寝起きで軽い気持ちでyoutubeを再生したところ、一気に目が覚めました。

ネットでは
「映画を見ているよう!」
「何度も繰り返し見てしまった!」
「とにかく世界観が美しい」
との絶賛の声が多数。

なぜポカリスウェットのCMがそこまで人を惹きつけるのか?分析してみました。
そして、調べてみたら、裏側まで大公開!しちゃっていました。こんなに見せちゃっていいの??と心配になるレベル。

画像引用:ポカリスウェット公式サイト

目次

毎年話題になるポカリスウェットCM、2021年は映画のような世界観

もはや何を言っても野暮でしかないので、内容については動画を見てほしいとしか言えません。

シーンは学校の廊下、誰にも経験があるような、とてもリアリティのある風景。それが、ひとたび主人公が走り出した途端に、一気に周囲が躍動し、さながらファンタジー映画のような演出がされています。

CM動画はYoutube、ポカリスウェット公式サイトのCMギャラリーにて、動画を見ることができます。
ちなみにテレビCMは15秒ですが、それだと世界観が掴みにくく、やはり60秒がいいです。

『ポカリスウェット公式サイト』ポカリスエット ギャラリー

一見しただけでは気づかないかもしれませんが、このちょっと時空がねじれたような不思議な世界観を実現するために、何しろ作り込んだセットがすごい。 うねうねと動く床や天井、揺れる壁はCGではなく、すべてリアルに作り込んでいる実写。

なんと、85mもある廊下のセットを作ったんだそうです。すごいの一言。
監督曰く「最初はCGを想定していたが、ポカリらしさはフィジカルだからという話になってCGをやめて動く舞台セットを作った」と言っています。うーむ、何もかもが規格外。

ちなみに、メイキングも惜しみなく見せてくれます。セットの動き、撮影の仕方なども大変興味深い。
そして、大勢のスタッフ・出演者とみんなで一つの作品を作り上げる、その現場の空気というのはグッとくるものがあります。

メイキング映像は公式サイトからも見られます

宮沢りえ、綾瀬はるかをスターにした、ポカリのCMは若手女優の登竜門

ポカリスウェットのCMでは、これまでも多くの人気女優を排出してきました。どれも出演タレントの華々しいメジャーデビュー作となり、彼女たちは確実に人気を獲得して行きます。それゆえ、ポカリのCMは新人女優の登竜門と言われています。

宮沢りえ(1988~1990)
一色紗英(1991~1994)
綾瀬はるか(2005~2006)
中条あやみ(2015)

などなど

ごく一部を抜粋しただけでも、この豪華な顔ぶれ。

ここで選ばれれば未来の成功を約束されていると言っても過言ではない。ポカリガールと呼ばれるそうで、上記以外にも、時代の顔となった女性たちが名を連ねています。

引用:【CM特集】歴代のポカリスエットCMに出演した美少女たち!通称「ポカリガール」をまとめてみました!

ものすごいセットと、ブレイク間違いなしの若い女性タレントの組み合わせ。それは話題にならないわけがありませんよね。

テレビCMの製作費、タレントの契約料っていくら?

このポカリスウェットのCM製作費ですが、正確な数字は確認できませんでしたが、一説には1億円。

でも、有名タレントがたくさん出ているCMは多い。携帯3社のCMを始め、近頃は洗濯洗剤のCMのタレントさんもやたら豪華ではないですか?冷静に考えると、商品単価に比べて相当な額をかけているはず…。そう考えると、洗剤ってほとんど広告費?という気持ちになります。。

それに比べたら、出演者自体はほぼ無名に近いので、タレント料はさほどかかっていないと想像できます。

契約料だけで3,000万クラスのタレント3人使えば、あっという間に1億。それよりも、セットに同じくらいお金かけてる方がよりクリエイティブじゃないか?と思いますが、テレビCMは人に見られていない前提で作り流すもの。少しでも視聴者の目に留めるためには有名人の起用は欠かせません。

しかしここ数年、タレントに何千万も払ったのに不祥事一発でぶっ飛んだりしてるケースも多々。誰をブッキングするかで社運が左右されてしまうので、広告主も広告代理店も気が抜けません。。

CMといえばお金がかかるのは製作費だけでなく放映料も、です。というより、むしろこっちが相当額になります。ポカリともなれば、オンエア回数も半端じゃない。だからこそ、ここまでの認知度があるわけなので。

先ほども言いましたが、テレビCMは基本、人が積極的に観ていないという前提で流されているものです。「そんなCM観たことない」と言われてしまうくらいなものでも、全国放送なら相当額の放映料を払っていたりします。 キー局のゴールデンタイムなら、15秒CM1回流して100万円とかの世界。ですから、世間の人の無意識に刷り込まれているほどのCMっていうのは、そりゃもう何十億とかかっていると、簡単に想像がつきます。

ポカリのCMは、本来の広告セオリーから外れている

ポカリスウェットのCM、実はこれ、“本来の広告のセオリー”からは外れています。

広告と言うのは、そもそも商品の効果効能を伝え、消費者の購買意欲を掻き立てるのが目的
ですが、このCMでは、商品自体はラストで一瞬飲んでいるシーンがちらっと映るだけで、商品カットらしいものは何もありません。

誰も知らない新製品なら、商品名やどんな商品なのかを時間いっぱい使って伝える必要があります。 しかし、ポカリスウェットのCMでは、ほぼ世界観のみで構成されています。

これは、『ポカリスウェット』というブランドがあるからこそできる手段。

ポカリスウェットという商品がどんなものか、世の中のほとんどの人が知っている。だから「ポカリスウェットはどんな時に役に立つか」を言わずに、「ポカリスウェットがある世界観がいかに素敵であるか」を表現することに徹底できています。

ブランドイメージ>商品PR

これは長年培ったブランドイメージがあってこそ、と言えます。

新ヒロイン・中島セナが魅せる、新しい主人公像

また、作中の中島セナさんが恐ろしいほどの透明感で美しいのですが、彼女演じる主人公の女の子は、主役でありながらどこか主役タイプではない。CMに流れるストーリーとしては、脇役にスポットを当てたような構造が見て取れます。きっと学校では物静かなタイプ。

これまでのCM、ポカリに限らず『シーブリーズ』などの高校生主役青春ものは、割と学年のアイドル的存在とか文武両道、さらに華やかな雰囲気を醸し、いつも輪の中心にいる目立つ“中心人物的存在”が主役になりがちでした。

特にポカリは、商品の特徴からいってもスポーツや部活で活動的な人物を連想します。

一方、今回の主役の彼女は、部活は入っていてもたぶん文化系、という雰囲気。
最初のシーンで廊下をひとりでとぼとぼ歩いているところは、むしろ周りの学生の方が元気があって華やかである。その中で流れと反対方向に走り出し、ユニフォームの運動部たちをかきわけ、体育館のステージの友達と手を取って緞帳の向こうに走っていく(ここはなんか演劇部っぽい?)。

こういう青春ものというのは大概キラキラしすぎていて

リア充じゃなかった自分を殺しにくる

という非リアの悲鳴が必ず聞こえてくるのだけど、これに関していえば、どっちかっていうと多分この主人公は、放課後は仲良しの友達(最後に出てくる子かな)と漫画読んだりして静かに過ごしていそうな雰囲気を想像できて、まさに物静かな非リアなタイプ。

だけど、自分らしく世間の流れに逆らって走り出したら、きっと何かが見えてくる。というメッセージと共に、すべての人を応援するものになっているんじゃないかというように見えます。

こういう部分は、いかにも現代らしく“Z世代の空気感”をつかんでいるというか、間違いなく昭和にはなかった、非常にニュートラルな価値観を感じさせます。

今回のテーマは「アゲインスト」

監督の柳沢翔さんのインタビューで、CMのコンセプトについて「今の世界の状況に対して、ポカリスウェットのヒロインは『アゲインスト』することをやりたいとクリエイティブチームからオーダーがあった」と明かしています。

『アゲインスト』とは、対する、逆らう、反抗する、反対する…

その表現として、学校の廊下をゾロゾロと一方向に流れるように歩いているところから振り返って逆走する、という演出になっています。

「勇気を出して自分の道を進んだら「逆風」が「追い風」に変わる」というのが今回のCMのメッセージなんだそう。

監督は「『アゲインスト』というテーマを、どうすれば高校生に届くだろうか、と考えた時、すごく些細なこと、例えば『一緒に帰ろう』と友達に伝えるためだけに逆走するのは身近なのでは、と考えた」と言っています。
このコメントからもわかるように、あくまでもポカリは高校生にどう届くかをイメージしているようで、そういえば同じ大塚製薬の『カロリーメイト』も、メインの広告に関しては受験生を描いていますね。

ただ、カロリーメイトの方も、野田洋次郎を起用した「この世界で考えつづける人へ」篇というのがあってこれまた素敵な仕上がりになっています。

参考動画:カロリーメイトCM|「この世界で考えつづける人へ」篇 60秒

ポカリスウェットもカロリーメイトも、メインCMのターゲット設定としては学生や受験生をメインに置いていますが、すべての世代の頑張る人を応援している、というブランドのスタンスがちゃんと見えます。励まされますね。

若手監督・柳沢翔が広告業界を変えていく?

今回のCMが話題になって、注目されているのが監督(演出)の柳沢翔さん。30代。過去インタビューをいくつか探して読んでみたら、面白い方でした。

参考記事:ACC「あの人が、今」~クリエイターわらしべ物語~柳沢翔さんインタビュー

今回、ポカリスウェットのCMが注目された一連の報道やネットの書き込みを見て「あれ?」と思ったことがあります。
それは、今までだったら話題のCMで名前が上がるのは大体、クリエイティブディレクターかアートディレクターでした。広告と言ったら大体そのCD、ADがドヤる(笑)と相場が決まっていました。

このCMにも、もちろんそういう立場の人はいます。
しかし今回メディアには全然そちらが出てこず(企画をメインで動かしている広告代理店は電通でした)、社外の動画クリエイターが注目されている。映画も撮っている監督さんだから特別に注目されているのか、それとも、これも動画が主導になりつつある時代性もあるのかもしれません。

私はたぶん広告にワクワクしてきた最後の世代なので、これまで広告業界を牽引し、時にドヤり倒してきたおじさんたちがオリンピック絡みで軒並み撃沈し(時代錯誤な言動ゆえ…)、大いにガッカリさせてくれた。そんな中で、それでも若い世代が広告の世界を更新してくれてるってのはとても元気になる話題でもありました。

柳沢さんは、美大で油絵を先行していたのに映像に鞍替えした上に、大手広告代理店の人ではなく(東北新社に入ったけどすぐやめている)、現場のたたき上げ。おそらくフリーランス的ポジションで複数のプロダクションに所属するというアーティストのような形を取って仕事をしているよう。

国内外で賞を取っているということで、私が知らなかっただけで、その世界では有名な方なのかもしれない。けれど、メイキングで時々映る姿は監督然としてなくて、現場でみんなと楽しそうにしている。きっとそのまんまの人なんだろうなと、非常に好感を持つのでした。そんな姿にも、クリエイティブの世界に新風が巻き起こっているなあと実感しました。

すべてのクリエイター必見!なんと、企画書も大公開!?

動画のメイキングの他に、『CM制作の舞台裏』として、映画のパンフレットのような作りになっているコンテンツがあるのですが、これは言ってみれば完成フェーズの企画書だ…!と個人的にテンション爆上がりしました。

セットの全景図からスケジュールまで載っています。このページへのリンクは、CMギャラリーページのラストにひっそりとありましたが、これこそお宝では!?!?

公開しちゃっていいの?とも思いますが、さすがプロセス・エコノミーの時代!
CM自体は、さすがに出した瞬間のインパクトや解禁ルールがあるため事前露出はできません。そのため、公開後にこうして後からじっくり楽しめるコンテンツを用意しておくというのもwebの時代、動画の時代と痛感します。

映画のポスターのよう!
音楽も印象的。QRもあるし、どこかで配布したりしたのでしょうか。
昔はここまで裏側を見せてくれませんでしたよね。すごい時代だ。

他のページもあります。必見です。

画像引用:ポカリスウェット公式ウェブサイト『CM制作の舞台裏』

CMも脱テレビ?webやyoutubeで時代にマッチした発信方法へ

テレビでも15秒バージョンをたまたま見たのですが、正直、全然よさが伝わりませんでした…そう、これがテレビCM。

今回私がこのポカリのCMを知ったのと同じように、
TwitterやFacebookで話題になる→知った人が検索→webやYoutubeで見る。

拡散方法としては、もはやテレビCMが主ではなく、ウェブ展開をメイン接触と設定しているんじゃないかと、実際にwebとテレビでリアルに体験した、いちユーザーとして感じました。

CMも脱テレビ。CMもひとつのクオリティの高いコンテンツとしてwebや動画で楽しむ時代なのですね。

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