ノンフィクション小説「デス・ゾーン」を読んで感じた、インフルエンサービジネスの限界。

みなさんは「栗城史多(くりきのぶかず)」という人物をご存知だろうか? すでにこの世にはいない、登山家であり起業家でもあり、インフルエンサーの先駆けだった人物だ。
人によっては彼を「挑戦者」と呼んだり、また別の人からは「詐欺師」とも呼ばれたり、その生き様で多くの人を巻き込み、多くの議論を巻き起こし、ふっと消えてなくなるようにいなくなった。
彼の生き様はなんとなくいろんなところで見聞きしてきたが、一度きちんと向き合ってみたかったことと、これからのビジネスや生き方についてあらためて自分と向き合ってみようと思い一冊の本を手に取ってみました。

『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』

北海道のTVマンが記した、栗城史多の実像に迫ったノンフィクション作品だ。

目次

登山家、起業家、インフルエンサー。『栗城史多』という男の人生

栗城史多さんのことについて今更考察することは、すでに亡くなった方を取り上げて死者に鞭打つようなことかも知れません。
ただ、今の世の中では彼のように正しいのか間違っているかも半信半疑のまま、それを「挑戦すること」と信じ、ただただ突っ走ろうとしている、まっすぐに生きようとしている人たちが多くいると思い、そして自分自身もきっとそんな「挑戦者」の一人なのかも知れないと思い、一度きちんと向き合い、そして伝えてみようと思ったというのが事の発端です。

0709_shigotonote02.jpg

彼が突っ走った10年以上前には芸能人のような有名人以外に、まだインフルエンサー的な人はそんなにいなかったと思います。いわゆるインフルエンサーの走りだったんだろうと。。。
そんな彼は大学生のころに登ったマッキンリーで登山の魅力に取り憑かれ、多くの人を巻き込みながらエベレストへと向かうのでした。

インフルエンサーとして多くの感動と多くの失望を与えた男

そんな栗城さんの登山の特徴はなんといってもカメラを手に、山を劇場に変えたそのスタイル。新時代の登山家として注目を浴びました。
「生中継をしながら山を登る」テクノロジーの発達により、莫大な予算がなくてもできるようになったこのスタイルで、一躍時の人になった栗城さんは、ビジネスマンとしても有能で多くの資金を集めることにも成功している。

0709_shigotonote03.jpg

もともと目立ちたがり屋だった性分もあって、まわりが楽しんだりしてることに喜びを感じ、調子に乗ってしまうところが良くも悪くも彼の特徴。そんな性格もあって最初のうちは多くの応援を得られ、たくさんの感動を与えられたりしているのだが、いつしかそれは裏返り、感動は失望へと変わり、彼の周りから多くの人が消えていくのだった。登山をエンターテイメントにしたことで、その実力に乖離も生じてきて、誹謗中傷や批判も多くなっていった。

「登山は死と隣り合わせの競技である」

ある時から彼の挑戦は無謀なものに変わっていき、死へのカウントダウンが始まっていった。

彼は山に登りたかったのか?それとも注目を浴びたかったのか?

彼の登山はまるでプロレスのようなものだと、多くの方がそんな風に言っている。登山の実力は3流でも良く言い過ぎくらいだとまで評されている。そんな彼が一躍注目されたりしているのは、多くの真面目に取り組んでいる登山家にとっては苦々しく感じたかも知れない。
ただ、彼には無邪気な部分も多くあったようで、まわりにはプロの登山家もいたり、名だたる有名経営者のサポートも得ていた。ただの口がうまいだけの男に果たしてこれだけの人が集まったりするのだろうか?本気で山を愛していたのだろうか?それともやっぱり口のうまい詐欺師のようなものだったのだろうか?

0709_shigotonote04.jpg

彼がどのような想いで山に向かっていたのかは、彼しか分からないと思う。この『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』の中では、作者なりのひとつの結論のようなものはでているが、それも長年一緒にいた作者が多くの取材とともに出したひとつの結論でしかない。本当のその答えは栗城さんにしか分からないだろう。
ただ、この本にも書いてあるのだが、人にはそれぞれの「デス・ゾーン」があるのだと思う。そこに留まりつづけたら死んでしまう・・・そんな場所だ。栗城さんにとっての「デス・ゾーン」はもしかしたら地上だったのかも知れない。。。

自分が成し遂げるべきものを、自分のペースで成し遂げていく

今更ながらだが、山における「デス・ゾーン」とは標高が8,000メートルを超えると空気中の酸素濃度が約1/3になり、人はその中では身体機能が失われ最終的には死に至ってしまう場所のこと。
この本は栗城さんの挑戦をノンフィクションで追いつつも、そんな「デス・ゾーン」はもしかしたら私たちのすぐそばにもあるかも知れないと警笛をならしているようだ。
栗城さんがみたキラキラした山の頂上と、みんなから祝福されるいいね!。そこはどちらも裏側には死ととなりあわせの恐ろしい場所なのではないかと。

0709_shigotonote05.jpg

昨今のビジネスの世界ではいかにファンを獲得するか。いかに多くのフォロワーを手に入れるかが重要になってきている。信用経済とかいう言葉もその類かも知れない。
たくさんのフォロワーや、コアなファンを手に入れることによって、あたかも自分自身に羽が生えたような錯覚をして、より遠くまで飛んでしまう・・・より高いところまで登れるんだと錯覚してしまった栗城さんを死に追いやったのは果たして誰なんだろうか?もしかしたら彼を死に追いやったのは自分かも知れないという作者の思いは、これからの人生をどう過ごすべきかの答えのひとつなのかも知れない。
まずは自分が成し遂げるべきものとしっかり向き合い、自分のペースで進んでいくことから始めることが大事なんだろう。ただ、時に大きく羽ばたくチャンスもきっとくるのだろう。人生もビジネスも本当に難しい世の中だと思う。

インフルエンサービジネスの終焉とこれからの未来

少々深い世界の話をしているようですが、私たちのそばにもなかなか危なっかしい場所があるような気がします。SNSを覗くと、きらびやかな世界と悪魔の誘いがそこらへんに転がっているような。。。
確かにお金もフォロワーもたくさんあった方がいいのかも知れない。しかし、どちらも双刃の剣かも知れない。あともどりできるくらいの場所の方がいいのかも知れませんね。ぼちぼち自分のペースで。

0709_shigotonote06.jpg

それでも発信が大事な時代でもあり、それを疎かにしてられないのも今の時代の難しさでもあります。これからの未来、ライフシフトやワークシフトはどうしていけばいいのでしょうか?
大事なのは、自分自身としっかりと向き合うことなんだろうと。仕事に対してもきちんとしたビジネスができているのかを、一歩ずつ、そう登山のように周りの仲間たちと、自然と、自分と相談しながら進んでいくことが大事なんだろうと。最後まで一人で登り続けた栗城くんはそれがしたかったのにできなかったんだろうなぁ。。。

最後に。

今回は起業家でもあり、登山家でもあった『栗城史多(くりきのぶかず)』さんと『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』の本を紹介させていただきました。
彼のことやこの本のことは、興味があったらいろいろと調べてみてください。本も内容については深くまで触れられないので、気になった方はぜひ読んでみてください。

彼のまわりには必死に彼を山から離そうとした人も多くいたようです。彼の実力ではこのまま進んでいったら必ず死んでしまうと・・・そう分かっていた人たちは“もう休め”と伝えていたそうです。
でも彼は山から離れなかった。指を失って離れる理由があったのに、離れても輝けるビジネスの場も用意してくれる先輩もいたのに、彼は山から離れなかった。

その答えがなんなのかを僕も知りたかったし、作者自身もおんなじ思いだったと思う。この本はそうして出来上がった一冊です。本当のことは彼しか分からないと思うが、彼の生き様と死に様にきちんと向き合ってできた本だと思う。
最後まで一人で登ってしまった彼にとって、本当に彼が伝えたかったことが僕には伝わったような気がした。

よかったらシェアしてね!
URLをコピーする
URLをコピーしました!
目次
閉じる